会社の相続

企業経営者がその会社を後継者に事業承継するにあたっては様々な難題があります。「後継者をいかに育てるか」という問題の他に相続という問題もあります。これまで、会社の株や土地の相続に関して、遺留分等の相続トラブルや、株式評価額による相続税の支払いができない等で事業継承を断念せざるをえない状況も多々存在していました。2008年10月に施行された中小企業経営承継円滑化法を中心に会社の相続に対して、実行しやすい環境が作られています。

中小企業経営承継円滑化法の概要

相続争いや相続税で会社がつぶれることを防ぐことを目的に施行されました。 例えば、これまで長男が経営を引き継ぎ、その他の兄弟は経営や会社には携わっていなかった場合でも、親が亡くなった時に遺言で株式を全て長男に相続したとしても、その兄弟には遺留分が存在し、会社の株式を渡したり、代位弁済をする必要がありました。これによって株式の分散によるトラブル、最悪の場合、倒産する可能性がありました。

従来の事前対策では相続人ごとに面倒な遺留分放棄が必要でしたが、中小企業経営承継円滑化法の施行によって、中小企業庁への申請及び家庭裁判所への申し立てを行い、許可を得ることで遺留分の対象から外すことが可能です。

また、長男が相続した株式に対しても膨大な相続税が課税されていました。これまでは他に資産がなければ自宅売却、足りなければ借金、それも間に合わない場合は会社売却や倒産せざるを得ない状況でした。経済産業省の認定を得ることで、一定の要件の下、相続税の8割を猶予することが可能になりました。

遺留分について

親が創業した会社を長男が継ぎ、親から会社株式すべてを(仮に時価1000万円とする)の贈与を受けました。親の引退後、長男の死に物狂いの努力によって会社は大きく成長し会社株式の時価は1億円まで成長したとします。

遺留分の計算では過去に贈与済みの財産(特別受益)も計算に入れることになります、預金などの財産と特別受益を合算して計算をします。現在の民法では会社株式については贈与時の時価(1000万円)でなく、遺産分割時の時価(1億円)で考えます。

仮に親の預金が1000万円だったとして、遺留分の計算をする際には 贈与時の時価1000万円+預金1000万円=2000万円 ではなく、 分割時の時価1億円+預金1000万年=1億1000万円となってしまいます。

兄弟が2人であった場合にもう片方の遺留分は1億1000万円÷2÷2=2750万円となります。預金1000万円をもう片方が全額相続したとしても、「1750万円分の会社株式か現金を下さい」と請求できることになってしまいます。

会社株式を1000万円から1億円にまで成長させたのはまさしく長男の死に物狂いの努力の結果です。しかし今の民法では会社経営に関係のないもう片方の兄弟に権利が生じてしまい、更にそれを長男が負担しなくてはいけないという、理不尽な状況に陥ってしまいます。

中小企業経営承継円滑化法では贈与を受けた会社株式については遺留分計算の対象から外すことができるようになっています。 また、外すのではなく遺留分計算でのその株式の価額を相当な一定額(贈与時の1000万円の時価)に固定することも可能です。その他、会社の敷地等の親の土地についても遺留分計算の対象から除外することが可能です(株式のように価額を固定することはできません)

なお、対象となるのは特例中小企業とされる非公開会社であり、経済産業大臣の確認を受け、家庭裁判所の許可及び推定相続人全員の合意が必要です。

中小企業の相続税納税猶予

中小企業オーナーが亡くなりその後継者がその中小企業の株式を相続する際の相続税負担も、相続税負担での倒産事例があるほど大変深刻な問題です。 中小企業経営承継円滑化法では、その株式の相続税につき、発行済み株式の3分の2までを限度とし、相続税の8割を納税猶予できる制度になっています。

株式への相続税が1億円とした場合、2000万円だけ納税すれば8000万円は納税猶予となります。これによって中小企業の相続税負担は大きく下がります。ただし、これは減額やカットではなく、あくまで納税猶予です。後継者が会社経営を続ける限りは8000万円は納税しなくても良いだけです。

このため、相続株式をM&Aで売却した場合や、相続税申告期限から5年以内に代表者でなくなる等、事業を継続しなくなった場合には、猶予された8000万円に利子税を上乗せ払うことになります。株式相続した後継者が将来亡くなった時点で8000万円が免除になります。

中小企業経営承継円滑化法関連の申請は複雑ですので、相続や会計士等の専門家にご相談することをお勧めします。